オンキヨーという会社

 オンキヨーという会社の名前はずっと以前から知っていました。しかし私がオンキヨー製品と出会ったのはまだ数年前のことです。 その当時 iPod classic を購入しヘッドホンで音楽を楽しんでいましたが、やはりスピーカーで聴いた方が気軽だと思いアンプの購入を検討したことがきっかけでした。

 アンプについて調べ始めると本当かウソか判りませんでしたが「今のアンプは音が悪い」、「バブル経済以前の製品の方が安く入手できて音が良い」という 掲示板の書き込みが目立ちました。当然、安く入手できて音が良い方がいいに決まっている、少しくらい壊れていても部品交換できると思った私は、ネットオークションでアンプを探し始めました。 事前にどんなアンプがいいか調べると 1970 年代に発売されたアンプは部品も大きくほとんどの場合修理できることを知り、 1970 年代発売のアンプに絞り込みました。メーカーはどこでもいいと思っていました。ラックスマンは当然、デノン、サンスイ、ヤマハは高額で取引されていて手が出ません。 オンキヨーはなぜか不人気で、その時偶然にジャンクの Integra A-755 を見つけました。1000 円ちょっとで落札できました。

 Integra A-755 というアンプは全く知りませんでした。ネットで調べてみると人気機種だったらしく現在も使用している人もいるとのこと。 アンプが届きヘッドホンを接続、電源を入れた確認したところボリュームのガリとセレクターの接触が少し悪い程度でグリグリやっている内に直ってしまいました。 子供の頃 DC アンプの音を聴いたことがあったので、70 年代のアンプはそれより古臭い音だと想像していました。 早速 PC の音声出力を接続し iTunes を再生してみると...びっくり!今まで聞いたことがない良い音でした。

 それからパワートランジスタの名称を調べたり、全ての電解コンデンサを交換したりしてジャンクオーディオ地獄へ足を踏み込んでしまいました。


Integra A-755

 ネット上にこのアンプの情報は少ないのですが本当に良いアンプです。何が良いかといえばデザインと音の雰囲気が一致していることです。 キャビネットは木製、フロントパネルも真鍮色のような塗装、スイッチ類も使い勝手が良いです。音は DC アンプと比べると、S/N 比や帯域で劣りますが ボーカルの発声音は艶のある若干ハスキーがかったような何とも色気を感じます。ディジタルで言うと PHILIPS の DAC 7 を思い出す音です。 たぶん終段パワートランジスタに関係があるのだろうと思って調べてみたらビンゴ!金田式 DC アンプの話題にも出てくる銘石「2SA627/2SD188」でした。 先人たちの評価はやっぱり正しいと関心してしまいました。

 このアンプで最近のディジタルサンプリング音源オンリーの曲を再生するとやはり応答性が悪いようでこもって聞こえます。生楽器演奏やアナログエフェクター系の曲に限定されます。 こんなに良い音なのに何でオンキヨーは不人気なのか首を傾げます。そんな訳で勝手にオンキヨーをプッシュすることにしました。


オンキヨーが不人気な理由

 日本国内の老舗で創業時から音響を扱う現存する会社はラックスマン、デノン、オンキヨーくらいしか思い浮かびません。 アキュフェーズは別格、ティアックは業務系主体、ヤマハは楽器(とエンジン)、ケンウッド(トリオ)は無線機、日本マランツも無線機、サンスイはトランス、ナカミチがありましたがテープレコーダが得意でした。でも消えました。 パイオニアは何だかなあ〜、他にもあったような...その他は家電メーカーからの参入組ばかりです。

 名門オンキヨーが不人気な理由を考えてみました。

(1)コンテンツレーベルを持っていない

 日本ビクター、日本コロンビア、日本マランツ、ソニーやパナソニックは、巨大な外国資本だったり傘下にコンテンツレーベルを持っています。 当然コンテンツだけでも巨大産業ですので資本力もあり、それを再生するオーディオ機器との相性は一般消費者が気にするところです。 平面式レコードを世に広めたビクターや、レコード会社傘下だったデンオン(デノン)のターンテーブルの性能が悪いはずがありません。フィリップス、フィリップス傘下の歴史を持つマランツ、ソニーの CD プレーヤーの性能が悪いはずがありません。 オンキヨーにはそういったコンテンツを持つという戦略が打てなかったことが一般消費者から敬遠されたことは否定できません。 そういう意味ではラックスマン、アキュフェーズ、ティアックは驚異的なブランド力です。

(2)大阪で創業し派手な宣伝を嫌った

 私の偏見が強いかもしれませんが、大阪で創業した場合、資本や物流が集中する東京から比べると不利になると思われます。東京人から見た大阪は外国と同等です。身近な親しみやすさを感じないのかもしれません。 老舗中の老舗ラックスマンも大阪で創業した名門ですが、昭和の時代には既にその地位を確立しています。 世界的大企業のパナソニックも大阪で創業した家電メーカーですが、パナソニックの場合はライバル企業が旧財閥系の日立や東芝、癇に障るソニーが相手だったので対巨人戦のように闘志が燃えたのでしょう。 オンキヨーはデノンの挑発には乗らなかったのだと思います。
 派手な宣伝を嫌った理由は商人の町大阪独特の文化が影響していると思います。例えが悪いかもしれませんがプロの料理人が使用する包丁は堺が有名です。しかし一般的に包丁ブランドは知られていません。知る人ぞ知るという感じです。 これは一般的に名を知られていなくても一流品を供給しているという自負があるからに違いありません。逆の見方をすれば、名前負けを最も嫌う文化なのかもしれません。

(3)東芝と資本提携した

 昭和 30 年代に東芝と資本提携したそうです。そういえば先日入手した Integra A-705 DC は東芝のパワートランジスタを使用しています。基板にも ONKYO の横に TOSHIBA の文字が見えます。 一時期東芝もオーレックスブランドを使用してオーディオ機器を製造販売していました。本当に自社生産していたかは知りませんが、オンキヨーの名前が東芝ブランドよりも上に立つといろいろ問題があったのでは無いかと思います。


オンキヨーアンプを理解する

 オンキヨーの製品は妥協がありません。限られた予算の中で材料を選びきっちり作ってきます。回路設計もしっかりしています。無理なこともしません。 自動車メーカーに例えるとフォルクスワーゲンを想像します。人によってはピンと来ない例えかもしれませんが言い換えると、大衆的であること、質実剛健、設計が命、どこで生産しても一定の品質が保てる。 そういった思想を感じます。 人によってはフォルクスワーゲンと同様に、面白みがない、デザインが普通すぎる、癖がなさすぎるといった意見が出てきそうですが、 これこそが長時間使っても飽きない、疲れない重要な設計思想です。

 デノンやソニーの製品は、煌びやかで高性能、持っているだけでステイタスという販売戦略を上手に宣伝しました。確かに高性能です。 しかし自動車メーカーに例えると BMW やポルシェと同じで最新式が出ると目移りしてしまいます。 そういう買い換え方の好きな人はデノンやソニーはぴったりです。 オンキヨーの製品はそういう買い換え方はできません。壊れるまで使いきります。そういう付き合い方をする製品です。

 オンキヨーの製品は癖がないと書きましたが、実は上手に味付けされています。手持ちには 3 台のオンキヨーアンプしかありませんがそれぞれ設計思想を感じる特徴があります。 Integra A-755 は終段パワートランジスタが支配的な音作りですが、評判の良い印象的な音のトランジスタを使用しています。Integra A-705 DC は DC アンプであることを強調するために高域と低域を若干強調した音作りをしています。 翌年発売された当時トリオの最高級プリメインアンプ KA-9900 と同じ終段パワートランジスタを使用していることも材料を吟味している証です。 さらに Integra A-917F は MOS FET と バイポーラトランジスタの良いとこ取りなスーパーカレントアンプで、低域のパワー感、高域の伸び感は 10 万円未満のアンプでは味わえないような 繊細で濃厚な一面を垣間見せてくれます。 手持ちにはありませんが、ネットオークションで人気の Integra A-927 や A-927LTD は デノンの PMA-2000 と対抗した経緯もあり、オンキヨー製品としては色物の気がします。

オンキヨーのプリメインアンプ

 オンキヨーの製品は一貫してラインナップが整然としています。型番法則を理解すれば直ぐにどのクラスのアンプか想像が付きます。 SA-7800II 以降の A-*** で始まるパイオニア製品のように型番法則とクラスがバラバラなため、型番からラインナップが理解できない状態になりました。 最終的にパイオニア製品は一般消費者からそっぽを向かれました。A-200(\169,000) と A-100(\59,800)、A-07(\230,000) と A-01(\26,800)、これだけで理解不能です。 ポルシェは 911 を名乗り続けているから売れるのです。パイオニアはそのことを理解できているのでしょうか?

 ネットオークションでは Integra A-927, A-927LTD の人気はあるようですが、Integra A-810 や A-820 系の人気が全くありません。 これらは Integra A-919, A-929 と同格の先祖です。以下の系統図を見れば如何に性能が良いのか一目瞭然です。

 尚、以下の表は「オーディオの足跡」様の資料を基にまとめました。

発売年 フラッグシップ ハイエンド アドバンスド スタンダード エントリ
1969 Integra 701
(\156,000)
Integra 712
(\82,200)
Integra 713
(\64,500)
Integra 714
(\48,800)
Integra 725
(\45,900)
1971
Integra 732
(\100,000)



1972
Integra A-722
(\88,000)
Integra A-733
(\74,000?)
Integra A-755
(\60,000)
Integra A-766
(\46,000)
1974 Integra A-711/150
(\220,000)
Integra A-722mkII/150
(\128,000)
Integra A-733mkII/120
(\89,800)
Integra A-755mkII/70
(\69,800)
Integra A-766mkII/50
(\59,800)


Integra A-722NII/160
(\128,000)
Integra A-733NII/130
(\89,800)


1975


Integra A-755NII/100
(\69,800)

DC アンプ化
1977

Integra A-708 DC
(\108,000)
Integra A-705 DC
(\75,000)

1978

Integra A-808
(\85,000)
Integra A-805
(\65,000)
モデル系列名変更
1980
Integra A-810
(\145,000)

Integra A-817
(\69,800)
Integra A-815
(\56,800)
1981

Integra A-819
(\95,000)





Integra A-817D
(\69,800)
Integra A-815D
(\56,800)


Integra A-820GT
(\159,000)
Integra A-819GT
(\95,000)

1982
Integra A-820GTR
(\175,000)
Integra A-819GTR
(\108,000)
Integra A-817GTR
(\69,800)
Integra A-815GTR
(\59,800)
1983
Integra A-820RS
(\175,000)
Integra A-819RS
(\108,000)
Integra A-817RS
(\69,800)
Integra A-815RS
(\59,800)
クラス集約
発売年 フラッグシップ ハイエンド スタンダード エントリ
1984
Integra A-819RX
(\119,000)
Integra A-817RX
(\74,800)
Integra A-815RX
(\67,800)
1985

Integra A-817RXII
(\79,800)
Integra A-815RXII
(\69,800)
1986
Integra A-819XX
(\135,000)
Integra A-817XX
(\79,800)

1987


Integra A-815EX
(\67,000)
1988 Integra A-2001
(\280,000)

Integra A-817EX
(\79,800)




Integra A-817XD
(\79,800)

1989

Integra A-817XG
(\78,000)

1990

Integra A-917
(\85,000)

1992 Integra A-1E
(\180,000)
Integra A-919
(\160,000)
Integra A-917F
(\89,000)

1993

Integra A-917R
(\90,000)

1994 Integra A-1E ver.2
(\200,000)

Integra A-917RV2
(\90,000)

1997

Integra A-927
(\95,000)




Integra A-927LTD
(\125,000)


1998
Integra A-929
(\170,000)

Integra A-925
(\69,800)


オンキヨーと付き合ってみる

 他社の価格帯と比べてみると分かりますが、一般向け製品でありながら価格帯は比較的高価です。それだけお金がかかっています。少なくともよく売れたらしいトリオの KA-7300 やパイオニアの SA-8800 より上のクラスはオンキヨー製品では当たり前に充実しています。 古いオンキヨー製品に納得のいかない人は、自己責任になりますが回路設計がしっかりしているので適切に部品を交換して自分の好みに改造するにはぴったりです。

 最後に、現在のオーディオ市場は、ネットオークションに限らず宣伝や意図的な口コミ情報に踊らされていることは否めません。自分の耳で確かめて自分にあったオーディオ機器と出会うきっかけになればと思います。